神経細胞の移動障害に関わる不明な点を究明するため、本研究者らは胎齢16日目のラット胎仔の大脳皮質を48時間、組織培養する系を開発した。 すなわち、ウィスター系母ラットより無菌的に胎齢16日目の胎仔を取り出し、緩衝液中で大脳皮質頭頂部から大脳新皮質を含む約2x3mm角の小組織片を取り出す。これを1μCi/mlの^3H-thymidineを含む培養液(GIT、日本製薬)に浸漬し、30分の標識の後、培養膜(TRANSWELL、COSTER、USA)上で静地培養を行う。今回、抗痙攣剤が胎仔脳神経細胞の移動に与える影響を調べるため、培養液に抗痙攣剤を添加し、その影響についてオートラジオグラフィーにより評価した。抗痙攣剤としてバルプロ酸(VPA)とゾニサミド(ZNS)を用いた。 VPA添加群(90、145μg/ml)では、control群に比べて培養組織標本中に死細胞が多くみられた。cotrol群では死細胞は主に大脳皮質の中間層にみられ、培養中の栄養状態が不良であるためと考えられたが、VPA群ではマトリックス層にもみられ、VPAそのものの細胞に対する障害作用もあると思われた。しかも、VPA濃度145μg/mlの方が死細胞は多くみられたので、濃度依存性と思われた。 ZNS添加群(50μg/dl)ではVPA添加群でみられたような死細胞の増加はなかった。オートラジオグラフィーを施し、細胞核の上にグレインが7つ以上あるものをlabeled cellとし、labeled cellの大脳皮質各層ごとの割合を求め、t-検定により比較した。control群(n=10)ではマトリックス細胞層52.6±1.6%(平均±標準誤差)、中間層内方44.4±1.8%、中間層外方3.1±0.6%、皮質原基0±0%、ZNS添加群(n=9)ではそれぞれ56.4±3.0%、42.4±3.1%、1.2±0.9%、0±0%であった。中間層外方で有意差が認められた。(p<0.05)。従って、ZNSが神経細胞移動を抑制する可能性が示唆された。
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