研究概要 |
【目的】肺洗浄にてサーファクタント欠乏状態にした成熟家兎をCMV(conventional mechanical ventilation)で換気したときに惹起される人工換気による肺損傷には、種々の炎症性メディエーターが関与していることを報告してきた。今回、炎症初期に産生される腫瘍壊死因子(TNF)に着目し、“抗TNF抗体を経気道的に投与することにより肺損傷を軽減できるのではないか"という仮説を立て検討した。 【対象および方法】成熟家兎に高頻度振動換気法(HFO)で換気を開始した。肺コンプライアンス(Crs)を測定した後、1回目の肺洗浄を施行しサーファクタント欠乏肺を作製した。その後、high dose群,low dose群,コントロール群の3群に分けた。ポリクロナールヒトTNF抗体をhigh dose群では1mg/kg,low dose群では0.2mg/kg,コントロール群ではウサギ血清IgGを気管内に投与した。その後CMVでFiO_21.0,平均気道内圧15cmH_2Oで4時間人工換気を行った。換気終了後にCrsを測定し、2回目の肺洗浄を施行した後、肺の病理所見を比較検討した。2回目の気管支肺洗浄液(BALF)で総細胞数(TC)および多核白血球数(PMN)を測定した。 【結果】(1)PaO_2は、high dose群ではlow dose群またはcontrol群より高値をとった。(2)CMV施行前後のCrsの変化率(%)は、high dose群はcontrol群より高値をとった。(3)BALF中のTC,PMN数はhigh dose群,low dose群はcontrol群より低値をとった。(4)無気肺、硝子膜形成などはhigh dose群,low dose群ではcontrol群より改善した。 【まとめ】ポリクロナールヒトTNF抗体の気管内投与により酸素化、肺コンプライアンス、肺病理所見は改善しBALFへのTC,PMN浸潤は抑制された。これらのことからこのモデルでのCMVによる肺損傷にはTNFが重要な役割を果たしていると考えられた。また、CLD等の肺損傷に対して、抗サイトカイン抗体をはじめとする炎症性メディエーターのmodulatorを肺内へ局所投与することにより肺損傷を軽減させる可能性が推測された。
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