今回の研究に於いては、外表奇形に対する胎児手術の可能性を検討する目的で、ラット胎仔に対する実験を行った。方法により以下の3群に分けて実験を行った。 1)奇形誘発モデルの作成:Vitamin Aをラット母体に投与し、投与時期、投与量および誘発された奇形の評価を行った。投与時期は妊娠10日から12日目とし、投与量はVitamin Aを20万から50万単位/kgとした。結果は妊娠10日目に50万単位/kg投与したもので、小口症、口蓋裂、四肢奇形等の発現が認められた。この妊娠10日目に50万単位/kg投与により誘発された小口症モデルを実験3)に用いた。 2)胎児手術の影響の評価:正常のラット胎仔に対し、手術操作を行い、その組織修復力を評価した。妊娠17日目の母体を開腹し子宮の一部に切開を加え、ラット胎仔口唇部分に全層にわたる切開を行った。この操作の後、母体を閉腹し妊娠を継続させ、妊娠21日目に胎仔を摘出し、手術部分の創傷修復過程を光学顕微鏡により観察した。その結果、瘢痕組織の形成のない良好な創傷治癒が認められた。 3)Vitamin A誘発奇形に対する手術操作:Vitamin Aを用いてラット胎仔に奇形誘発を行い、誘発された小口症に対して、妊娠17日目に実験2)と同様に手術を行った。手術は口角部分に切開を行い小口症状態を修復した後、同部の再癒着を防ぐためにシリコンシートを挿入した。実験2)と同様に妊娠を継続させ、妊娠21日目に胎仔を採取し観察した。今回の操作により誘発された小口症は、修復されているのが観察された。しかし、胎仔操作の全身的な影響による母体内での胎仔死亡も認められ、胎仔操作の全身的影響の軽減を計る必要があると考えられた。 今回の研究により、胎児手術により外表奇形の修復を行う事は、手術後の瘢痕形成が少なく有効な方法であると考えられた。今後は、手術操作による胎仔死亡率の減少などその適応の安全性の確立が必要と考えられる。
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