研究概要 |
[対象と方法]1981年より10年間,170例の乳癌手術症例のパラフィン固定標本から、原発巣と転移リンパ節巣を用い、腫瘍側要因としてPCNA,c-erbB-2、宿主側要因としてlaminin,typeIV collagen(C4)の計4種につき免疫組織染色を行い,臨床病理学的所見や予後を検討した。PCNA染色は染色良好な部位で腫瘍細胞約500個以上を観察し、染色陽性細胞数の割合を標識率(LI)として表示した。[結果]PCNAによる原発巣とリンパ節転移巣での検討で、原発巣のLI値は転移巣に比べ全般に高値で、原発腫瘍径tの増大と共に増加したが,転移巣では逆にtの増大と共に若干低下した。Kaplan-Meier法を用いたLI値と原発巣と転移巣との発現率の差を、転移巣のLI値が原発巣より大以上A群と未満B群に分け検討したが、両群の生存率に著差はみられなかった。c-erbB-2染色では、原発巣では、陽性群の生存率は陰性群に比べp=0.05で有意に不良であった。リンパ節の染色でも陽性群の生存率は陰性群に比べp=0.16で不良な傾向であった。原発巣でのlaminin染色では、組織学的stageの低い症例,n0症例および乳頭腺管癌で陽性となる頻度が高い傾向を認めた。C4染色は,laminin染色に比べ陽性となる頻度が低く、他の予後因子との間には有意の相関はみられなかった。C4とlaminin染色で、原発巣とリンパ節転移巣を比較すると、染色陽性となる頻度はいずれも転移巣で高い傾向を示した。また、リンパ節転移程度nlαとnlβ以上群につき原発巣とリンパ節転移巣間で比較検討すること、原発巣ではC4染色とlaminin染色の陽性率に著差はみられなかったが,リンパ節転移巣ではnlβ以上群でlaminin染色の陽性率がわずかに高くなる傾向が観察された。現在抗癌剤に対する治療成績との関連をみるために組織内のThimidine phosphorylase(PyNPase)とPCNA,C4,lamininとの関連を検討中である。癌細胞周辺のPyNPaseの発現と予後の間に関連が見られ、宿主側の反応の重要性が認められている。
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