本研究は、動脈瘤の成因について研究することが課題であった。当初、剖検例の大動脈を対象としてその病理組織学的変化と内径の拡張の有無との相関について検討していたが、弾性型動脈である大動脈は、中膜弾性線維の萎縮・断裂が非常に高度なものとなって初めて内腔の拡張をきたすため、動脈硬化に伴って認められる中膜内側の弾性線維の萎縮・断裂のみでは内径に変化をきたさず、これを瘤化の初期段階とみなしてよいものかどうか疑問が生じた。そこで、本年度後半より対象を大動脈から脳動脈に変更した。脳動脈は筋型動脈のひとつであるが、冠動脈など他の筋型動脈と異なり、非常に良く発達したヒダ状の内弾性板を有している。この内弾性板が動脈の瘤化に伴って直線化し、高度に断裂・消失する。また、断裂はないが直線化の認められる血管があり、これを瘤化の初期段階と判断した。つぎに、東京大学永井博士により提供された抗平滑筋ミオシン抗体を用いてこれらの脳動脈に対して、免疫染色を施行した。その結果、瘤壁のみならず、内弾性板が直線化している瘤化の初期段階において、すでに平滑筋ミオシンの抗原性は低下していることが判明した。このことから、瘤形成の因子として、従来は主として弾性線維・コラーゲン等の細胞外マトリックスの変性ばかり注目されてきたが、平滑筋の変性が瘤化の初期においてすでに起こっている可能性が示唆された。今後さらに症例数を重ねて検討するとともに、電顕を用いて、瘤化に至るまでの各段階におけるミオシンの抗原性と平滑筋の形態との関連についても検討したい。
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