研究概要 |
【方法】APC遺伝子のmutation cluster region(MCR)の前後に相当する部位で合成ペプタイドを作成し,それぞれにラビットポリクローナル抗体を得た.APC遺伝子産物の発現を上記抗体を用い培養細胞及び生検・手術材料において検討した。免疫組織染色において,これら2種の抗体の認識部位の違いによる染色性の差を正常部位および腫瘍部位でしらべた.【結果】2%アガロースゲル電気泳動または6%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によるウェスタンブロット法では作成した2種の抗体により約300kDaのバンドが検出された.このバンドはそれぞれ2種の抗原を添加することにより消失し,抗原に特異的であった.マイクロスプリット式ウェスタンブロット検出装置を使用することにより生検等の微量材料からも抗原の検出が可能であった.共焦点レーザ顕微鏡による解析では抗原は培養細胞の細胞膜の内側および核膜に接する細胞質に染色された.また,免疫組織染色にて正常大腸粘膜では腺管上皮の細胞質に染色性を得た.次いで,72症例,92個の腫瘍(癌腫:26例,腺腫:38例・58腫瘍,腺腫内癌:8例・8腫瘍)において,癌腫:50%,腺腫:57%,腺腫内癌:38%にAPC蛋白の発現異常を認めた.部位別の検討では,癌腫では口側大腸で50%,肛門側大腸で36%,腺腫では口側大腸で57%,肛門側大腸で43%であった.また大腸早期潰瘍型癌腫3例中1例にもAPC蛋白の発現異常を認めた. APC遺伝子のコーディング領域は15のexonからなり,全体として2843のアミノ酸をコードする巨大な遺伝子であり,遺伝子レベルでの異常の検索には多大な労力と時間が必要となるが,抗体を用いた蛋白レベルでの解析は比較的簡単で短時間でできる利点がある. 今回作成した抗体と確立された検出システムは非常に有用であると考えている.
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