癌抑制遺伝子p53の異常とgenetic instabilityの関連を明らかにする目的で、胃癌組織における異常p53の発現を検索し、さらにgenetic instabilityの指標としてのDNA ploidy pattern、および増殖活性との相関を検討した。 (1)対象:1989年から1990年までに九州大学第二外科および関連施設にて切除された胃癌症例96例を対象とした。 (2)方法:切除胃癌の先進部の凍結標本を用いて、免疫組織学的手法によりp53異常蛋白発現と増殖活性(Ki-67陽性細胞率)を、またFACScan flowcytometerによりDNA ploidy patternを検索した。 (3)結果:対象96例のうち、52例(54%)にp53異常蛋白発現を認めた。p53異常蛋白陽性群52例のDNA Indexの平均値は1.3±0.28でAneuploid症例は36例(69%)であった。一方、p53異常蛋白陰性群44例のDNA Indexの平均値は1.19±0.26でAneuploid症例は20例(45%)であり、いずれも両群間に有意差を認めた(P<0.05)。増殖活性との相関をみると、p53異常蛋白陽性群のKi-67陽性細胞率は30.6±12%であり、陰性群の25.1±10.7%に比べ有意に高かった。 (4)考察:p53異常を有するヒト体細胞癌では、genetic instabilityが増加し、DNA全体としてみた場合Aneuploid patternとしてgenetic instabilityをとらえることが可能と思われる。今回の我々の検討では、異常p53蛋白の発現が約半数に認められ、陽性群では陰性群に比べて、有意にAneuploid patternの割合が多く、高い増殖活性を示した。今後、癌の発生と進展課程におけるp53遺伝子の意義について検討し、さらに制癌剤感受性や治療効果との関連について研究を進める予定である。
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