研究概要 |
食道扁平上皮癌症例では高率に上皮増殖因子受容体(EGFR)の過剰発現がみられることと、過剰発現症例では予後が有意に不良であり生物学的悪性度が高いことは以前より報告されていた。今回の予備実験において、食道扁平上皮癌では原発巣のみならず転移巣においてもEGFRの過剰発現がみられることを免疫組織化学的手法により確認した。そこで食道扁平上皮癌転移巣の質的診断法として、EGFRを標的とする抗体結合鉄磁性造影剤を用いたMRI診断法の開発をおこなった。【材料と方法】材料として、EGFR発現扁平上皮癌細胞株(A431,TE8)、EGFR非発現肺小細胞癌株(H69)、抗ヒトEGFRMoAb(528)、強磁性微小鉄粒子Lignosite FML(直径10nm)を用いた。Lignosite FML 1ml(10mgFe/ml)をMoAb(528)1mgまたはnormal mouse lgG 1mgと結合させた後、30%グリセオール・20mg/ml BSA溶液中で超遠心(4×10^5g,10min)して沈殿物より528-Feまたはnormal-Feをそれぞれ作製した。528-Feとnormal-FeのEGFR過剰発現細胞株A431に対する抗体活性をELISAで比較した。また528-Feとnormal-Feの各濃度におけるT_1、T_2時間を測定してMRI造影剤としての性質を検討した。予めA431、TE8、H69をヌードマウス背側皮下に移植し腫瘍を形成させた後、528-Fe、normal-Feを同量ずつ各々のマウスに尾静脈内投与して、経時的にMRIを行って移植腫瘍の描出能を検討した。【結果】528-FeはA431に対して抗体活性を保持していたが、normal-Feは抗体活性を認めなかった。528-Fe、normal-Feは両者ともT_1、T_2時間を緩和し、MRI造影剤としての性質を保持していた。A431およびTE8移植マウスでは、528-Fe投与群において、20時間後までは経時的に移植腫瘍のT_2強調画像における造影効果が増強したが、その後は造影効果の減弱が見みられた。一方normal-Fe投与群では造影効果を認めなかった。さらにH69移植マウスではいずれの群でも造影効果を認めなかった。【結論】EGFRを標的とした抗体結合鉄磁性造影剤を用いることにより、食道癌転移巣の質的なMRI診断が可能になると考えられた。
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