研究概要 |
本研究の目的は、DMHを投与した大腸癌誘発ラットの発癌過程にある大腸組織を用いて、大腸癌好発部位の大腸粘膜を中心に、経時的に組織を採取し、発癌過程および前癌状態におけるサイトカインの動向をin vivoにおいて検討しようとするものである。6週齢雄WistarラットにDMH 25mg/kgを週 1回、20週間皮下投与を行った。これまでの発癌実験における大腸癌好発部位(肛門より口側2〜3cm、近位結腸の壁在リンパ節近傍)の大腸粘膜を中心に、DMH投与後10週目より、1週毎に解剖、経時的に組織を採取した。結腸の各目的部位より粘膜を採取、一部はホモジュネートし、ELISA法によりIL1,IL2,IL6,TNFについて測定し、さらに組織学的に抗TNF抗体、抗IL6抗体および抗IL2receptor抗体を用いて酵素抗体法により免疫染色を行い、組織での出現および局在を検討した。 結果、肉眼的隆起病変は22週目より出現しはじめた。細胞増殖能はBrdUによる計測では投与前では平均標識率15.5%、12週目が15.8%、16週目で18.8%、20週目で19.5%であり、経時的に増殖能が増加する傾向がみられたが、有意差は見られず、隆起病変出現(腺腫)ににより24.8%高値を呈した。しかしながら、今回の前癌状態から腺腫発生時点においてのサイトカインの検出および組織学的局在の証明は現時点において出来ていない。また、ヒトポリ-プに対しても同様の試みを行ったが、明らかな結果が見出せないでいる。理由としては(1)一連のサイトカインは局所の組織侵襲、すなわち正常細胞が自己逸脱する過程において産生される物質であるために、癌腫を形成していない発癌過程および前癌状態においては出現してこない、(2)血中における広範かつ多彩なネットワークによる相互作用により生体組織の応答を統御しているが、いわゆるレセプターは局所には存在していない、等が考え得る。しかし、癌化した組織においてはTリンパ球が優位となり、その浸潤程度は早期癌であるほど強いとする報告もある。本研究の達成には技術面における検討も重要な課題であり、in vitroに比べ実験過程においても更に習熟することが必要と思われる。今後も引続き、前癌病変および発癌後の腫瘍増殖過程との関係について実験的検討を行っていく。
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