目的:移植肺再灌流時の微小循環障害の病態を解明することを目的とした研究である。 方法:標識アルブミンをtracerにして蛍光顕微鏡を用いて、ラット左片肺移植後の肺微小循環を観察した。 結果:従来の研究結果から、移植肺血管損傷によると思われる血管壁の透過性の亢進と顕著な微小循環障害即ち末梢肺血流の低下とシャント血流の増加が生じていることが判った。 今年度は、蛍光生体染色用のアクリジンレッドを持続静注することによって、移植肺再灌流時の白血球の動態を可視化し、移植肺微小循環障害と白血球との関係を解明した。 再灌流時多数の白血球が経時的に細動脈末梢領域の血管壁にトラップされ、それに伴って動脈血流が低下した。一方、細静脈では白血球はトラップされなかったが、血球の低下がみられ、一部には血液が逆流するところが観察された。これは流入動脈の血流低下が原因と考えられ機能的なシャントが発生していることが示唆された。移植肺の中枢の動静脈から採血した血球計算の結果から、これらの白血球は顆粒球であることが判った。白血球を除去したラットに移植したときの肺微小循環では末梢血流が良好であったことを合わせて考えると顆粒球のトラップ現象が血流障害の原因となっていることが示唆された。しかし、左片肺移植後再灌流時に右主肺動脈を遮断し移植肺血流を増加させた移植肺循環では、血流は改善し、顆粒球トラップ現象が抑制された。このことから、顆粒球の付着現象には血流の低下すなわち損傷血管壁近傍のずり応力が関与していることが示唆された。 以上の結果から、血流障害と顆粒球のトラップ現象との相互作用によって、再灌流時移植肺では微小循環障害が発生しているものと考えられた。
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