研究概要 |
新生児(生後5-10日)家兎摘出心を用いたLangendorf潅流モデルにて、左室内バルーンによる心内圧の変化から心機能を評価し、未熟心筋における心筋保護効果に関して以下の結果を得た。 1.低温時至適pH strategy。低体温体外循環中のpH strategyは、低温時の酵素代謝,細胞機能の点からalpha statが良いとされ現在主流となっているが、よりacidicな方が代謝を抑制し、再潅流障害を軽減するとの報告もある。新生児心筋保護における至適pH strategyを検討するために、潅流冷却後5℃にて2時間虚血とした後再潅流復温し、心機能の回復を低温時のpHをalpha statにて管理した群とpH statにて管理した群とで比較したところ、心収縮能の回復がpH stat群で有意に良好であった。この結果は、低温・心停止による心筋代謝抑制を主眼とした現在の新生児心筋保護では、虚血中の心筋代謝維持より心筋代謝抑制と再潅流障害軽減がより重要である事を示唆した。 2.虚血再潅流障害における血液成分の関与。20℃にて3時間虚血(St.Thomas心筋保護液使用)とした後再潅流復温し、潅流液にKerbs-Henseleit(K-H)液を使用したK群、活性化した同種血液を使用したB群、虚血前はK-H液・再潅流時に活性化血液を使用したBR群とで心機能の回復を比較したところ、K群に比してB群,BR群で有意に回復が悪く、再潅流障害における血液成分の関与が示された。心筋保護の実験モデルとしてはK-H液等の晶質液潅流が一般的であるが、未熟心筋では再潅流障害は重要な問題であり血液成分の影響は無視できないため、血液潅流モデルを用いるべきであると思われた。 3.心筋保護液中Adenosineの効果。Adenosineは心筋細胞へのCa^<2+>流入を阻害し、白血球・血管内皮・平滑筋に作用し再潅流障害を軽減するとされ、移植臓器保存液であるUniversity of Wisconcin液(UW)に臨床応用されているが、新生児の心筋保護液にAdenosineを使用した報告はない。新生児心筋保護におけるAdenosineの効果を評価するために、20℃にて3時間虚血とした後再潅流復温し、心機能の回復を心筋保護液(30分毎に投与)にSt.Thomas(ST)液を用いたST群、UWを用いたUW群、ST液にAdenosineを加えたAD群で比較したところ、ST群では回復が不充分であったが、AD群は有意に良好な心収縮能と拡張能の回復を示しAdenosineの有用性が示唆された。UW群では回復がST群と同等以下であり、これはUWはK^+が高濃度で頻回投与により血管内皮障害等を来したためと考えられた。
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