研究実績計画に基づき、1.顔面神経障害モデル作成、2.神経機能回復の形態学的、電気生理学的検査を行った。 1.麻酔下に実験用ラットの頭蓋外顔面神経の本幹を露出し、その中枢側及び抹消側を電気刺激して同側眼輪筋及び口輪筋から筋電図を記録した。続いて、中枢側の刺激による誘発筋電位が無反応となるまで神経本幹に機械的挫滅を与え、誘発筋電図を記録した。直後に挫滅部顔面神経を切除し組織学的変化を調べた。神経周囲膜内の小出血が散在し、一部髄鞘の断裂を思わせる所見が得られた。これにより、研究目的に述べたように形態学的連続性が保たれていながら電気生理学的に無反応に陥った抹消顔面神経障害モデルを作成し得た。 2.顔面神経挫滅後そのまま閉創し何等の処置も行わない保存群と、挫滅部を切除し同一ラットの脛骨神経を移植した神経移植群に分け経過を追った。保存群においては、挫滅後に見られた顔面神経麻痺が時間の経過とともに回復し、早いものは1週間後に十分三叉神経顔面神経反射が得られた。筋電図上の電圧で比較すると1、2週で50〜70%まで回復し、6〜8週ではほぼ100%まで回復を示した。一方、神経移植群においては、1〜2週目での回復はわずかであり、10週まで経過を追っても10〜20%程度までの回復が見られたのみであった。 本実験モデルにおいて、神経移植が保存的治療に勝るという結果は得られなかった。すなわち、形態学的連続性が保たれていながら電気生理学的に無反応に陥った抹消顔面神経障害において、挫滅部神経を切除し他の抹消神経を移植吻合することは、神経機能の早期回復に有効ではないという結論にいたった。最初の挫滅の状態が機能回復の予後を決定すると推測され、挫滅程度の形態学的な差による結果の評価が必要と考える。
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