1.目的:脳挫傷における細胞外液中興奮性アミノ酸と脳血流の変化、さらに低体温の両者への影響を明らかにする目的で本研究を行った。 2.方法:成長雄ラットを全身麻酔下におき、右頭頂部皮質内に微小透析プローブ、一体型脳内温度測定および水素クリアランス用電極を挿入した。実験群として、正常脳温群(脳温36-37℃)、低体温群(脳温31-32℃)の2群を設定した。脳挫傷は、重量落下法により作成した。微小透析プローブをリンゲル液で毎分2μlの速度で灌流し、回収液中のアミノ酸濃度を高速液体クロマトグラフィーにより測定した。脳血流は水素クリアランス法により測定した。 3.結果:脳温を正常の保った対照群では細胞外液中のグルタミン酸、アスパラギン酸、タウリンなどのアミノ酸の急激な上昇が見られた。脳血流は脳挫傷作成後に一次的に軽度の低下が認められたが、いわゆる虚血閾値以下には低下しなかった。低体温群においても脳血流は正常脳温群と同様に一次的に低下が見られたが両群間で有意差は認められなかった。細胞外液中アミノ酸濃度は、低体温群では正常脳温群よりむしろ高い上昇が観察された。 4.研究の意義:上記の結果は極めて興味深い知見である。即ち、脳挫傷における細胞外液中アミノ酸の上昇は脳虚血によるものとは機序が異なるということが明らかとなった。また、低体温によりアミノ酸上昇がむしろ上昇した原因は、低体温がアミノ酸の取り込み機構や細胞外液中での拡散を抑制したためではないかと推定された。脳挫傷における低体温療法の効果は、シナプス前からの放出抑制とは関係が少なく、シナプス後細胞内で進行する細胞障害の過程の抑制が主体であると推定された。この抑制過程の究明は今後の重要な課題である。
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