研究概要 |
(目的) 中枢神経系では神経受容体に連携する細胞内情報伝達系が機能発現に重要な役割を担っている。我々はその中でも特にイノシトールリン脂質代謝(phosphoinositide turnover,Plturnover)に注目し、現在までにそのプローブとして^<11>C-diacylglycerol(DAG)を用いた皮質の二次情報伝達系の画像化を可能とし、それがアセチルコリン受容体(mAChR)と連携する二次情報伝達画像であることを確認した。皮質機能発現時におけるmAChRの情報伝達効率は学習効果や記憶や慣れの機序に深く関係しているが、インビボでの測定法がこのDAGを用いる方法以外にないため、現在までに報告がない。quinuclidinyl benzilate(QNB)を用いてmAChRのインビトロ結合活性と、それに連携する細胞内情報伝達系のインビボ活性をDAGを用いて定量測定し、それらを組合せて情報伝達効率の定量評価を試みた。(方法) S-Dラット脳内にイボテン酸を10μg,0.75μl注入した一側マイネルト核破壊モデルを作製一週間後、^3H-QNBの結合活性と^<11>C-DAGを用いてマイネルト核投射部位である大脳皮質での細胞内情報伝達系(ここではイノシトールリン脂質代謝)の活性をdual autoradiographyを用いて測定し、同一個体の大脳皮質での情報伝達効率を定量した。対照として生食注入群を作製した。情報伝達効率をmAChR結合活性とそれに引き続くPlturnover活性の比率とした。情報伝達効率=病変側DAG/健常側DAG÷病変側QNB/健常側QNBとして計算した。(結果) 患側前頭葉において、健側に比較してQNBの結合が80.3±16.7%に低下したが、DAGの取り込みは100.8±5.0%であった。したがって情報伝達効率は+26.6%と上昇した。その情報伝達効率画像が得られた。(結論) 情報伝達効率は破壊側皮質でむしろ上昇しており、なんらかの代償機転が働いていると考察された。受容体の画像化のみでは、その後の細胞内情報伝達の把握ができない。
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