私が今年度行なった研究は、イヌ大槽内へのタルク注入によって惹起される持続性且つ遅発性の血管収縮が真に脳血管攣縮と同一病態であるか否かを薬理学的手法を用いて検討したことと、注入されたタルクがどのようなメカニズムを介して血管収縮を誘発するかを特にフリーラヂカルに絞って検討した2点である。まず前者についてはこれまでに電子顕微鏡を用いた組織学的な検討を中心に脳血管攣縮との関連を検討し、タルクによる血管収縮と脳血管攣縮との病理組織学的特徴がよく類似することを既に報告した。一方脳血管攣縮時の脳血管は通常の血管と様々な薬理学的特性が異なることも既に知られており、今年度はこうした観点からタルク注入によって得られた収縮血管をin vitroにおいて、その薬理学的特性を検討した。その結果、タルク注入による収縮血管は内皮依存性の弛緩が極めて減弱している一方、内皮非依存性の弛緩反応は保たれていることが明らかになった。この血管特性は通常の脳血管攣縮におけるそれに酷似するものであり、タルクモデルの妥当性が示される結果である。次にfree radical scavengerとして、Superoxide dismutase(SOD)に着目し、これを大槽内に持続注入することによる治療効果を検討したところ、タルクモデルではその遅発性の収縮が著しく抑制されることが観察された。このことはタルクによる持続性の血管収縮とこれに伴う組織学的諸変化がsuperoxide anionによってmediateされることを意味する。一方クモ膜下出血モデルではこのSODの治療効果は観察されず、タルクモデルとの間に結果の相異が見られた。今後クモ膜下出血モデルにおけるsuperoxide anionの関与についてさらに検討を進める予定である。
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