脳細胞膜の微小環境解析を水分子の拡散現象に注目して行った。通常のMRIでは拡散現象は無視できるが、非常に強い傾斜磁場パレスを印加することにより水分子の微小な動きをとらえることが可能になり拡散係数の定量も可能となる。MR装置は、SISCO社製動物用MR SIS 200/400(4.7テスラ、40cm横置き型)を使用し、スピンエコー法(Tr2500msec Te 90msec)における180°パレスの前後に最大1.5G/cmのMPGパルスを印加した。 1.Wistarラットにおける正常脳水分子拡散係数測定 生体では頭部の固定程度で値が変動するため、ラット頭部固定装置を作製し、Wistarラットでは皮質/基底各/視神経/三叉神経のADCは0.66/0.74/0.99/0.46×10^<-3>mm^2/secであった。 2.有機水銀中毒脳(Wistarラット)の拡散係数測定 急性メチル水銀中毒ラットモデルを作製し、曝露前と曝露後2週間目に測定した。曝露後のADCは、基底核ではADC低下、視神経ではADC上昇を認め、前者は細胞内の浮腫を、後者はミエリン鞘崩壊による浮腫の所見と考えた。 3.正常幼犬における拡散強調画像、拡散係数測定、拡散係数画像 ラット同様固定に問題があるため、イヌ頭部固定装置を作製し、脳拍動による影響をなくすため、心電同期法を併用した。正常幼犬における皮質/白質/視床/内包/脳室内髄液のADCはそれぞれ1.12/1.18/1.10/1.40/2.54×10^<-3>mm^2/secであった。 4.水頭症幼犬における拡散強調画像、換算係数測定、拡散係数画像 体重1.5-2.5kgの幼犬を用い大槽にカオリンを注入して水頭症を作製した。脳室拡大が強くなるにつれ皮質と視床のADCは低下し、細胞外腔の減少や細胞内の浮腫の所見と考えられた。脳室周囲白質のADC上昇は早い拡散を示し間質性浮腫の所見であった。 以上の結果から、水分子の拡散を定量することで細胞膜をとりまく微小環境の推定ができる可能性が示唆された。
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