健常成人女性38名を対象に、椅子からの立ち上がり動作における、開始坐位姿勢の変化による影響を明らかにするために、三次元動作解析装置と筋電図を用いて運動学的分析を行った。 開始坐位姿勢の条件としては椅子の高さを5条件、殿部の深さ(浅い・深い)、足部の位置(前・後)をそれぞれ2条件の組み合わせにて測定を行った。 動作解析にはマニア社製ローカスIIIDを使用した。マーカーの取り付け部位は左耳珠、肩峰、腸骨綾中央、大転子、大腿骨外側顆、外果、第5中足骨頭の7点とし、得られたマーカーの移動軌跡より頭部及び膝部最大前方移動距離と体幹前傾角度、股・膝関節屈曲、足関節背屈角度の各最大値を求めた。 また、同時に表面電極を使用し、左腹直筋、腰部脊柱起立筋、大腿直筋、内側ハムストリングス、前脛骨筋、腓腹筋の筋活動を、日本電気三栄製8チャンネル多用途テレメーター511にて導出した。筋活動の解析には本研究費にて購入した筋電図波形解析プログラムを使用し、解析においては各筋の筋活動量として平均積分値を用いた。 統計学的分析は、前述した頭部及び膝部最大前方移動距離、体幹前傾角度、股・膝関節屈曲角度、足関節背屈角度の各最大値と、筋活動量について、椅子の高さ、殿部の深さ、足部の位置の3要因にて分散分析を行った。 その結果、頭部及び膝部最大前方移動距離と体幹及び下肢関節角度では、椅子の高さ、足部の位置の2要因において、有意な変化を認め、高さが低いほど、また、足部が前方に位置するほど、その移動距離と各最大角度の増大を認めた。殿部の深さについては有意な影響は認められなかった。 筋活動量については、大腿直筋、前脛骨筋において同様の2要因で有意な影響を認め、高さが低いほど、足部が前方に位置するほど、その筋活動量は増大した。 以上より、開始坐位姿勢の立ち上がり動作に及ぼす影響では、椅子の高さと足部位置が重要であることが明らかにされた。
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