本年度の研究実施項目として申請していた項目の内、まず、手術時に摘出した腫瘍内に浸潤しているcytotoxic lymphocyteをフイコールを用いて分離、培養を試みたが、悪性骨腫瘍、特に骨肉腫やEwing肉腫の切除組織よりのリンパ球の分離は非常に困難であることが判明した.これは、悪性骨腫瘍の場合には化学療法により腫瘍部分の石灰化壊死を生じ、浸潤する生細胞の存在が認められないことが多いためと考えられた.軟部腫瘍の場合は、骨腫瘍に比較するとリンパ球の分離は可能であったが、得られる細胞数に多寡がみられ、組織学的にリンパ球の浸潤の認められる腫瘍においてより多くリンパ球の採取が可能であった.次に採取したリンパ球をIL-2やIL-4などサイトカインを用いて、より抗腫瘍活性を高めた培養に移行する際、採取リンパ球数が少ない場合には、リンパ球の増殖や活性化が予期する程には上昇しないことが判明した。そのため、抗腫瘍活性の測定に必要な細胞数が得られず評価の不可能なケースが多くみられた.ただ、腫瘍摘出前に、免疫賦活剤を腫瘍周囲に投与し、生体内で局所的な炎症によるリンパ球浸潤を促す方法を試みた悪性神経鞘腫の1例において、採取リンパ球数と活性化の上昇が認められ、今後、この方法が有用であると考えられた。当該患者のTILは、培養増殖後、体内に戻し、肺転移の縮小をみている。現在、この患者を含め、十分なリンパ球数が得られた数例からのTILのRT-PCRを施行中であるが、PCRの条件設定中の段階であり、まだ明確なTCRレパトアの構造解析には至っていない。またCr release assayをnativeのTILとcytokine activated TILにて測定したが、有意な殺腫瘍活性の差は測定できなかった。以上、腫瘍組織よりのリンパ球分離、培養と活性化の段階で、当初、予定していた程活性化TILが得られず、現段階では、まず、より多くのTILの採取法と活性化方法の確立が必要であると考えられ、その調整をおこなっている.
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