研究概要 |
本年度は、臨床例に極めて類似した慢性絞扼神経障害モデルを用いて神経障害の発生過程における運動機能の変化を調べ、電気生理学的所見および神経の組織学的所見との関連性を検討した。 [方法]44匹のWister系雄成熟ラット(8〜10週齢)の右坐骨神経(直径約1.3mm)に内径1.5mm、長さ10mmのSilastic tubeを囲繞し、以後経時的に以下の実験を行った。対照としては処置前の神経および対側の神経を用いた。 運動機能解析:De Medinaceliら(1982)の方法に準じ、ラットを歩行させ、後肢の足跡を計測した。計測値をもとにDe Medinaceliらの計算式によるSciatic function index(SFI)、Carltonら(1986)の計算式によるSFI(CSFI)およびBainら(1989)の計算式によるSFI(BSFI)を求めた。同時に、坐骨神経の複合神経活動電位(CAP)、運動神経伝導速度(MNCV)の測定とエバンスブルー染色による組織学的観察とを行って、その所見を比較した。 [結果]SFIは4カ月後には-11.3±7.3%となり、対照神経(0.7±7.1%)に比べて有意に(p<0.05)低下し始めた。その時期はCAPが対照に比べて有意に(p<0.01)低下し、組織的には神経束内の浮腫および髄鞘の非薄化を認めた時期に一致した。その後も、SFIは徐々に低下し、組織学的変化も増悪していった。MNCVは、術後8カ月目で、対照神経に比べ有意に(p<0.05)低下した。なお、SFIはCSFIやBSFIよりも低下の程度は大きかった。 以上より、絞扼神経障害の実験モデルでも、臨床例と同様にMNCVの低下以前に運動障害が生じることがわかった。その結果を第9回日本整形外科基礎学術集会に報告した(日本整形外科学会雑誌68巻S1483,1994年)。また本年11月開催予定の2nd Conbined Meeting of The Orthopaedic Research Societiesで発表予定である。なお神経支配筋の病理組織像は、筋組織のタイプ別の染色方法の確立が不十分であり、来年度以降の課題である。
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