物体保持中の力の調節機能を知るために、健常者と片麻酔患者のPrecision Gripにおよぼす外乱負荷刺激の影響を検討した。 健常者では、外乱負荷刺激を与えてからのつまみ力の経時的変化と負荷量の曲線の変化から、重力方向の負荷と同時に肘関節の関与が考えられる。刺激を与えてからつまみの立ち上がり、つまり、つまみ動作を行うまでの反応時間は60〜90msを要し、この時間は負荷が大きくなるにつれて短くなる傾向にあった。負荷量に対するつまみ力の変化は、負荷の増大にともない最大値、安定値ともに増加する傾向を示した。最大つまみ力に対する安定時のつまみ力の値の割合(つまみ率)は、負荷量の変化との関連性は認められなかった。母指と示指のつまみ力では、最大値、安定値ともに、示指のつまみ力に対する母指のつまみ力の割合が増加する傾向を示した。筋電図上では、第1背側骨間筋の出現が母指球筋群よりも早い。このことは、つまみの対象物に変化が起きたとき、指示によって変化に対応する調節が持続的に行われ、母指によって重力方向の負荷に対してつまみを維持しようとする調節が行われていることを示していると考えられる。 片麻痺患者のつまみ力調節の変化は、つまみのパターンも含めて、回復段階によって違いがみられた。つまみの型はStageIV、Vでは一定のポジションをとれずVIでは指腹つまみを持続することが可能であった。つまみ力の変化はStageVIでも、重さの変化に適切には対応できず必要最小限の力での調節は不可能だった。回復が進んだ手の機能を持つ患者でも十分な手の使用を行っていないことの原因の一つに上記に見られたつまみの調節機能の低下があると考えられた。
|