麻酔導入時に使用されるチオバルビタールは心収縮力抑制作用が知られている。術前に心疾患の既往がなく心電図上異常を認めなかった8名を対象としチオペンタール6mg・kg-1・サクシニルコリン1mg・kg-1にて麻酔導入・挿管を行った。この間心エコーにて心尖部より四腔断面像を描出し、(1)導入前(2)挿管直前(3)挿管後(4)吸入麻酔薬投与後循環動態安定時にAQ(Acoustic Quantification)法にて連続的に左室拡張終期容積(以下EDV)、収縮終期容積(以下ESV)、一回拍出量(SV)および駆出率(以下EF)を計測した。また、橈骨動脈に挿入したカテーテルより得られる平均動脈圧(MAP)よりEmax近似の指標としてMAP/ESV、Ea近似の指標としてMAP/SVを算出した。EFは導入前(57.9±8.7)に比べ挿管直前有意に低下し(50.3±8.6)、挿管後さらに低下した(41.7±10.6)。MAP/ESVは導入前(3.81±1.73)から挿管直前に有意に低下したが(2.75±1.12)挿管後上昇し(3.25±1.22)導入前と有意差を認めなかった。MAP/SVは挿管前は導入前(2.60±0.46)に比べ明らかな変動を示さず(2.59±0.79)、挿管後有意に上昇した(4.60±1.66)。挿管直前のEFの低下はMAP/ESVの低下よりチオペンタールによる直接的心収縮力抑制作用のためと考えられ、挿管後の低値は挿管刺激で後負荷の上昇によりafterload mismatchingをおこすためと考えられた。
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