吸入麻酔薬には気道平滑筋弛緩作用があり、喘息重積発作時の治療に用いられる。重症の気管・気管支痙攣時には低酸素症をきたすが、例酸素下の気道平滑筋に吸入麻酔薬がどのように作用するかは知られていない。また現在臨床で使用されている4種の吸入麻酔薬のうち、どれが治療上有用であるかも知られていない。そこで本研究では、低酸素下のハロセン、イソフルレンの気道平滑筋に及ぼす影響を、対照群と比較検討した。 その結果、(1)対照群ではハロセン、イソフルレンによるKC1収縮に対する有意な弛緩反応はみられなかった。KC1収縮に対するハロセン、イソフルレンの弛緩反応は低酸素により有意に増強された。低酸素時の弛緩反応はイソフルレンとハロセンで差はなかった。(2)対照群ではハロセン、イソフルレンによるエンドセリン-1収縮に対する有意な弛緩反応はみられなかった。エンドセリン-1収縮に対するハロセン、イソフルレンの弛緩反応は低酸素により有意に増強された。低酸素時の弛緩反応はハロセンとイソフルレンで差はなかったが、モルモットにおけるMACがハロセン1%、イソフルレン1.2%であることを考慮すると、低酸素時の弛緩反応はイソフルレンの方が強い傾向にあると考えられた。 近年、気管支痙攣時にエンドセリン-1が重要な働きをしていることが示唆されている。低酸素時においてエンドセリン-1収縮に対するイソフルレンの弛緩反応が増強したことから、低酸素状態を伴う重篤な気管支痙攣の治療にはハロセンのみならずイソフルレンも有用である可能性が示唆された。 以上の結果より、低酸素時の吸入麻酔薬の気道平滑筋弛緩作用は正常時とは同一ではないことがわかった。
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