本研究は、Johnsらによって報告された一酸化窒素(NO)合成阻害薬によるハロセン麻酔の最小肺胞内濃度(MAC)の低下の機序を明らかにする目的で行った。1.最初にネコの中枢神経系電気活動及び侵害刺激によって生じるその反応に及ぼすNO合成阻害薬N^w-nitro-L-arginine methyl ester(L-NAME)の効果について検討した。L-NAMEを30mg/kgまで静脈内投与してもネコの脳波及び中脳網様体多要素神経活動(R-MUA)には有意な変化は生じなかった。また侵害刺激によって大脳皮質の脳波が低振幅速波化し、海馬脳波が律動性の高振幅徐波化する脳波の活性化反応及びR-MUAの増加反応にもL-NAMEの投与前後で変化は無かった。さらに、予想に反して、ラットにおいて報告されたようなL-NAMEによるハロセン MACの低下はネコにおいては観察されなかった。2.ハロセン麻酔のラットにおいてL-NAMEを静脈内(10-30mg/kg)、脳室内(100μg)、或いは脊髄クモ膜下腔内(100μg或いは1mg)投与し、ハロセンMACの変化を検討したが、Johnsの報告とは異なり、いずれの投与においてもハロセンMACに有意な変化は得られなかった。3.ラットにL-NAME 50mg/kg或いは生理食塩水を1日2回、4日間にわたって腹腔内投与し、5日目に小脳のNO合成酵素活性、cyclic guanosine monophosphate(cGMP)レベル或いはハロセンMACを測定したところ、NO合成酵素活性及びcGMPレベルはL-NAME投与群で著明に低下していたにもかかわらず、ハロセンMACにはL-NAME投与群と生食投与群の間で有意な差は認められなかった。以上の事実より、これまでの報告とは異なり、L-Arg-NO-cGMP系はハロセンの麻酔作用には影響を及ぼさないものと考えられた。
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