本研究は、ラット海馬を対象として低酸素暴露時の脳内局所における興奮性アミノ酸遊離動態に与える全身麻酔薬の影響について検討を行った。全身麻酔薬としては脳保護作用を有するとされているバルビツレート(ペントバルビタール)を用い、生化学的環境の指標としては興奮性アミノ酸(グルタミン酸およびアスパラギン酸)を脳内微小透析法を用いて計測した。実験1週間前に麻酔下に微小透析用ガイドカニュラ刺入手術を行ない、実験前日に微小透析用プローブを無麻酔下に挿入した。実験当日、ラットを直径30cm、高さ30cmのボックス内で、無拘束状態にて自発呼吸下にボックス内の気体(窒素と酸素の混合ガス)を吸入させた。潅流液は人工脳脊髄液を用いた。潅流開始60分間は酸素濃度を20%として検体を採取し、潅流開始30分の時点で薬剤もしくは生理食塩水の投与を行なった。潅流開始60分から30分間はボックス内の酸素濃度を10〜13%のMild Hypoxia状態とし、潅流開始90分から30分間は再び酸素濃度を20%に戻し、計120分間の検体採取を行なった。生理食塩水投与ラットではMild Hypoxia状態の30分間で、酸素濃度20%時の遊離と比較しグルタミン酸では10-20%、アスパラギン酸で35-40%の遊離増加が認められた。この遊離増加は酸素濃度を20%に戻すことによって、速やかに元のレベルに復帰した。一方、バルビツレート投与ラットでは、薬剤投与によるグルタミン酸およびアスパラギン酸の遊離に変化は認められなかったが、Mild Hypoxia状態30分間のグルタミン酸、アスパラギン酸の遊離増加は認められず、酸素濃度20%時と同レベルの遊離であった。今後はケタミン、イソフルレン等の他の全身麻酔薬の影響を検討するとともに、薬剤の投与がHypoxiaの前と後では興奮性アミノ酸遊離に与える効果が異なるかどうか検討を行う予定である。
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