精巣腫瘍患者の精液所見は一般に不良であるが、これは健側精巣の造精機能が低下しているためと考えられる。この造精機能障害の原因を明らかにするため、組織学的検討、内分泌学的検討を行い以下の結果を得た。 1.精巣腫瘍患者の造精機能:精液検査では、seminoma症例(S)に比しnon-seminoma症例(NS)において精子濃度の低下が顕著であった。組織学的検討ではNSはSに比べ造精機能障害が強く、特に腫瘍近傍の残存精細管での障害が著しいが、腫瘍から離れた部位や健側精巣においても障害が認められた。健側精巣のJohnsen's mean score countは、NSでは腫瘍重量、hCG、estradiol(以下E2)との間に負の相関を認めたが、Sでは相関を認めなかった。以上よりNSでは、hCG刺激とE2産生が造精機能低下に関与していることが示唆された。 2.E2産生部位に関する検討:(1)患側精索静脈血、肘静脈血でのhCG、progesterone、DHEA、androstenedione、testosterone、E2を測定したところ、いずれもSに比しNSの精索静脈血で高値を示した。(2)患側精巣組織における、androgen産生に関与する全ての酵素P450SCC、3β-HSD、P450c17、17β-HSDおよびandrogenをestrogenに転換する酵素P450aromの局在を、免疫組織化学的に検討した。その結果、腫瘍部位ではNSの間質細胞にP450aromの発現が認められたが、それ以外の酵素の発現は認められなかった。非腫瘍部精巣では、Leydig細胞に検索した全ての酵素の発現を認めた。(3)患側精巣の腫瘍部と非腫瘍部精巣内のP450arom活性を^3H-water法で検討した。P450arom活性は、NSの腫瘍部と非腫瘍部精巣において高値を示した。以上より精巣腫瘍、特にNSにおいては、hCG刺激によりLeydig細胞におけるandrogen産生が亢進し、これがLeydig細胞および腫瘍部間質のP450aromによりstrogenに変換され、造精機能障害を引き起こすと考えられた。
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