研究概要 |
消化器系癌におけるsialyl Le^Xの発現は転移性と関連しているが、ホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いた腎細胞癌におけるFH6糖鎖抗原の発現は有意に予後が良いことが示されている。このような組織の違いによる糖鎖の二面性を研究するため、その第一歩として腎癌においてFH6により認識される糖蛋白の分析を目的とした。まず腎癌細胞株をFACS解析した。正常腎尿細管培養細胞ではFH6糖鎖抗原の発現が認められたが、原発巣由来のSMKT-R1,SMKT-R3,SMKT-R4および転移巣由来のTOS-1,TOS-MTOS-2のいずれにおいてもFH6糖鎖抗原の発現は認められなかった。ついで腎細胞癌15例の新鮮生凍結標本でモノクローナル抗体FH6を用いた組織免疫染色を施行したところ、正常近位尿細管細胞は染色されたが腫瘍細胞はどの症例においても染色されなかった。以上の結果より、癌細胞の株化によってFH6糖鎖抗原が陰性化することが示され、これはパラフィン包埋切片を用いた組織免疫染色の結果を支持する。一方、新鮮生凍結標本での結果は、腎癌組織においてはFH6糖鎖抗原がおそらく何らかの分子との相互作用のためにmaskingが生じていることを示唆している。現在、正常腎と腎癌組織より蛋白を抽出、モノクローナル抗体FH6を用いwertern blottingを施行中であるが、結果はまだ得られていない。FH6糖鎖抗原は、腎においては分化抗原としての単なるマーカーにとどまらず、癌を抑制する方向に働いていることも想定されるため、引き続きFH6糖鎖抗原の分析を行う予定である。
|