研究概要 |
〈目的〉ラット膀胱平滑筋のムスカリン受容体刺激によるイノシトールリン脂質系の情報伝達機構について検討した.〈方法〉10週齢のSprague-Dawleyラットの膀胱平滑筋を細切し,Krebs-Hansleit液中でインキュベートして,carbachol刺激を行った.20%perchloric acidで反応を止め,除蛋白後にIP_3を牛副腎のbinding proteinを用いて[^3H]IP_3との競合法で測定した.各種ムスカリン受容体subtypeのantagonistの影響については,膀胱平滑筋細片を[^3H]myo-inositolと3時間インキュベートし,洗浄後に10mMLiCl存在下でcarbachol刺激を行った.chloroform/methanol法で反応を止め,Dowex AG1カラムでtotal IPを抽出して液体シンチレーションカウンターで測定した.〈結果〉1)IP_3はcarbachol刺激で約20秒後に最高値に達して30秒後には基礎値に戻った.2)carbacholに対するEC_<50>は約5mMであった.3)M1 receptorのantagonistであるPirenzepineでは10^<-5>M以上の高濃度ではじめてIP_3産生が抑制され,M2 receptor antagonistのMethoctramineでは10^<-4>Mの高濃度でも抑制はみられなかった.AtropineとM3 receptor antagonistである4-DAMPでは10^<-7>Mの低濃度でIP_3産生が完全に抑制された.Atropine,4-DAMPおよびPirenzepineのIC_<50>はそれぞれ1.5x10^<-8>M,2.5x10^<-8>Mおよび7.2x10^<-6>Mであった.〈考察〉平滑筋細胞では受容体刺激によってまずIP_3が産生され,ついで細胞内Ca濃度が上昇して収縮応答がおこるとされている.ラット膀胱平滑筋ではM3 receptorがIP_3産生に関与して収縮を惹起するものと考えられたが,IP_3は30秒以内に刺激前値に戻るため、収縮の持続相には関与しないものと考えられた.
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