研究概要 |
対象は、ヒト子宮内膜癌細胞株8種と、手術時に採集した子宮内膜癌47例、ミューラー管混合腫瘍3例、子宮内膜増殖症7例、及び正常子宮内膜11例であった。方法は、子宮内膜癌細胞株及び凍結組織を用いてreverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)法によりCD44のmRNAの発現を調べた。また、4%PFA固定パラフィン包埋標本を用いて免疫組織化学染色(IHC)によりCD44蛋白の局在を調べた。 RT-PCR法によるCD44mRNAの検索では細胞株8種全部にCD44sとCD44vの強い発現を認めた。そのうち、転移能が高いと予想されるHOOUAとHEC50BではCD44の発現は比較的低かった。また、臨床検体におけるCD44mRNAの検索では、CD44sおよびCD44vの発現率は内膜癌では正常内膜より有意に低かった。さらにIHCではCD44sおよびCD44vの発現は細胞膜上に見られ、正常内膜腺では基底膜側に強く見られた。そして、CD44mRNAの発現と臨床病理学的予後因子との関連を検討した結果、脈管侵襲陽性群ではCD44vの発現率が陰性群に比して有意に低かった。 これらの結果より、正常子宮内膜においては、CD44sだけでなくCD44vも強く発現しており、CD44は何らかの機能を有することが示唆された。また、CD44vを発現していない子宮内膜癌では脈管侵襲陽性率が高いことより、CD44v発現の低下は、子宮内膜癌細胞の脈管内への侵入という転移の比較的早期の現象に関与していることが示唆された。 以上、本研究では子宮内膜癌の転移・浸潤におけるCD44の役割を初めて明らかにし、子宮内膜癌の診断・治療において臨床応用が期待された。癌の転移・浸潤の機構の解明に重要な知見を提供し、既に公表済みである(Cancer Research54,3922-3928,1994)。
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