まずヒト卵において、受精時に細胞内カルシウム増加反応が起こるか否かを検討した。体外受精・胚移植にて未受精に終わった卵と、夫の精子とを、患者夫婦の同意を得た後に材料として用いた。実験手技としては、卵の透明帯を酵素処理にて除去した後に、カルシウム結合性蛍光色素であるFura2をAM体の形で卵内に取り込ませ、特定波長をもった異なる2種類の紫外線を照射し、励起される蛍光の強度の比の変化から細胞内カルシウム濃度の変化を観察した。実験に供した卵のうちいくつかで、細胞内カルシウム濃度の周期的増加反応が認められた。これは我々が既にハムスター卵において報告した現象に類似していた。また、この現象は全ての卵でみられるわけではなく、さらに媒精後から反応が出現するまでの時間や、反応の周期などは個々のケースで差がみられた。 次に、反応の有無が、用いた精子の性状によるものであるか否かを検討した。精子の運動率や運動性を指標とした場合、精子性状が極端に悪い精子を用いた場合には、明らかに反応の出現度が低かった。しかし精子性状が中等度以上では、パラメータと反応の出現度との間には、明確な相関はみられなかった。さらに進めて、元になった体外受精・胚移植での受精率と、反応の出現率との間に相関があるか否かも検討しているが、両者にほぼ正の相関が認められる傾向にはあるが、現時点では明確な結論は得られていない。今後さらに症例数を追加していく必要あると思われる。また元の体外受精・胚移植では未受精であったにも関わらず、反応が認められた例も何例かあり、その差の原因も今後検討していく必要があると思われる。
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