癌遺伝子に対するアンチセンス遺伝子の持つ抗腫瘍効果の有用性についてin vitroで検討した。今回対象としたのは当科で継代培養中の婦人科癌細胞である子宮頚癌由来のHeLa、MS-751、子宮体癌由来のHHUA、HEC、ISHIKAWA、卵巣癌由来のSKOV-3、MCASである。Ki-rasについてその遺伝子変異を検討すると、HHUAがGGT→GTT、HEC、MCASがGGT→GATの点遺伝子変異を持っていた。そこでそれぞれの遺伝子変異に特異的な15merのアンチセンス遺伝子(AS-ODNs)を作製し、培養液中に添加した。無修飾のODNsは容易に血清中のDNaseにより分解されるため、今回使用したODNsは全てphosphorothioate処理を行った。結果、殆どの細胞株は特異的な反応を示さなかったが、HECにおいてのみ特異的に10μM以上で増殖抑制効果を示した。同時に行ったウエスタンブロッティングでもAS-ODNsによって特異的にKi-ras蛋白の発現が抑制されていることが確認された。しかし10μMといった高濃度では非特異的な作用も強くこのままでは臨床応用は困難である。次いで、癌遺伝子である、c-myc、c-fos、c-junについても検討を行った。結果、c-fos、c-junにおいては特異的な作用を認めなかったが、c-mycにおいては5μMでも特異的な増殖抑制効果が検討した全ての細胞株において確認された。しかし、この作用は非特異的であり、正常細胞に関しても強い作用を持つことが予想された。性ステロイドホルモンやアドリアシン等の抗癌剤との併用も相乗効果は示さなかった。phosphorothioate ODNsについては現在その生体内での代謝、副作用が未知数でありアンチセンス鎖の位置の選択、長さ、その他の修飾も含め、今後もさらなる検討が必要と思われた。
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