[目的]精子の受精機能に不可欠な先体反応にはカルシウムイオンの存在が必要であるが、細胞内のカルシウムシグナルがどのようにして精子細胞機能の発現と結び付くかは不明である。カルシウム情報伝達機構のひとつであるカルパインが先体反応に関与することが示されていることから、本研究では精子カルパイン活性測定が精子機能の指標として有用であるかどうか検討した。[方法]妊孕性の確認された男性と男性不妊症患者、体外受精施行患者の精子カルパイン活性を測定し、健丈男性と男性不妊症患者および体外受精患者の受精症例と非受精症例の間で精子カルパイン活性に差があるかどうか検討した。精子カルパイン活性測定法は以下のとうり行った。精子を精漿から完全に分離し、精子蛋白50μgを用いてpH7.4、カルシウムイオン4mMの条件下で、FITC標識カゼインを基質としカルパインのエンドペプチダーゼ活性により生じたトリクロロ酢酸可溶性のペプチドフラグメントを定量した。また精子カルパイン活性と他の精子機能検査結果との関係も検討した。[成績]健丈男性と男性不妊症患者および体外受精症例の受精症例と非受精症例の間の精子カルパイン活性の比較では、健丈男性および受精症例が有意に高値を示した。また、精子濃度、精子運動率、形態正常精子率、精子アクロシン活性、hypoosmotoc swelling test の結果と精子カルパイン活性との間には正の相関がみられた。精子カルパイン活性の正常値を健丈男性の測定値の平均±2SD と規定すると、体外受精の結果のpositive/negative predictive valueは、それぞれ65%、78%であった。[結論]精子カルパイン活性測定は精子受精機能を反映することが示され、新しい精子機能検査として有用であることが示唆された。現在、先体反応時の精子カルパイン活性の変化について検討中である。
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