研究概要 |
ヒト正常分娩満期胎盤の非可溶性分画ならびに可溶性分画の両者より2^1,5^1-ADP agaroseならびにcalmodulin-agaroseの2つのffinity columnsを用いて一酸化窒素合成酵素(Nitric oxide synthase:NOS)を精製した。非可溶性分画ならびに可溶性分画の両者からともにSDS電気泳動上、分子量約135kDaの蛋白として単離された。完全精製の段階における酵素学的解析は、その活性の消失が迅速なため、未だ行っていないが、ADP agaroseにおける部分精製の段階では高い[3H]-L-arginineから[3H]-L-citrullineへの変換活性が認められ、また、この活性は一酸化窒素合成酵素の特異的阻害物質であるL-NMMAによって完全に抑制された。しかもADPプールのうちの135kDaの蛋白は、既に発表されているヒト血管内皮型NOSのアミノ酸配列のうちのC末端、約17アミノ酸残基の合成ポリペプチドに対する抗体にウエスタンブロットにおいて反応した。以上の事から、ヒト胎盤より2つのaffinity columnsによって精製された135kDaの蛋白は明らかにNOSであり、かつその分子量と抗原性から、血管内皮型NOSであることが判明した。この血管内皮型NOSに対する抗体を用いた免疫組織化学的検討では、ヒト正常分娩満期胎盤における血管内皮型NOSの局在は、胎児血管内皮のみならず、ジンチチウム細胞の刷子縁にも局在する事が判明した。更に,妊娠初期絨毛においてもジンチチウム細胞の同部位における局在を認め,血管内皮型NOSが全妊娠経過を通じて発現していることが示された。よって、ヒト胎盤においては構成的に血管内皮型NOSが発現しており、NOの生理学的作用の一つである血小板凝集抑制作用や可溶性グアニレートサイクレース活性化による平滑筋の弛緩作用を考え合わせると、NOが妊娠維持機構に非常に重要な役割をはたしている事が示唆された。
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