磁気刺激検査を用いた顔面運動の制御機構の検討のために、まずヒト正常例において側頭葉顔面運動野および耳後部を小型円形コイルを用いて、コイル出力1000V以上にて磁気刺激を行い、口輪筋より誘発電位を記録した。耳後部刺激では、同側口輪筋より潜時約4.5msecで4〜6mVの複合筋活動電位が再現性を持って記録され、これを短潜時反応と呼称した。さらに側頭葉顔面運動野を磁気刺激することにより、両側口輪筋より短潜時反応のほかに潜時約10msecおよび潜時約40msecの複合筋活動電位が記録され、前者を中潜時反応、後者を長潜時反応と呼称することにした。また、茎乳突孔顔面神経主幹を電気刺激して得られた口輪筋複合筋活動電位と磁気刺激短潜時反応との潜時差から、耳後部磁気刺激により内耳道底部顔面神経が刺激されていることを確認した。これを踏まえ、ニホンザルにて実験を行った。気管内挿管、フローセン麻酔下にニホンザル口輪筋に同芯針電極を刺入し、耳後部および側頭葉顔面運動野を磁気刺激して複合筋活動電位を記録した。耳後部刺激では、ヒトとほぼ同様の短潜時反応が記録されたが、側頭葉顔面運動野磁気刺激では安定した再現性のある中潜時反応および長潜時反応波形は記録されず、現有する円形コイルでは的確な刺激部位を選択することが不可能であるためと考え、安定した反応の記録には八の字コイルもしくはダブルコーンコイルによる刺激部位をより現局した刺激が必要であると考えられた。一方、ヒト正常例において三叉神経および顔面神経に電気刺激を先行刺激して、磁気刺激にて得られた各反応波形潜時を検討した。耳後部刺激による短潜時反応は変化が見られなかったが、中潜時反応では刺激間隔10〜25msecにて促通効果が観察され、顔面運動の制御には脳幹の核レベルより中枢での関与機構の存在が示唆された。
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