研究概要 |
近年、p53癌抑制遺伝子,ならびにいくつかの癌遺伝子が,消化器癌・卵巣癌・乳癌などの予後因子として相次いで報告されているが,頭頚部領域では,喉頭癌に関する報告が僅かに認められるのみで、下咽頭癌に関するまとまった報告は国内外を通じて未だみられない.そこで,我々は,下咽頭癌未治療例の初診時生検組織標本ならびに手術時摘出標本を用いて,従来より指摘されている臨床的ならびに病理組織学的指標,さらにp53癌抑制遺伝子について免疫組織学的検討を加えた結果,平成6年度の研究において,以下の結論を得た. 1)N0〜N2bの間にあきらかな有意差はなく,N2cすなわち両側頚部リンパ節転移症例の予後は極めて不良であった. 2)病理組織学的頚部リンパ節転移数が0〜2個の症例の5年生存率は約60%と比較的良好であったのに対し,3個以上の症例の予後は著しく不良であった. 3)分化度および病理組織学的深達度では予後に有意差を認めなかった. 4)リンパ管浸潤ならびに血管浸潤が認められた症例の予後は極めて不良であった. 5)下咽頭癌57例中20例(35%)にp53の過剰発現が認められた. 6)早期癌においてもp53の過剰発現が認められた. 7)p53の過剰発現は同一組織内では,正常細胞には認められず,上皮内癌を含めた癌細胞にのみ認められた. 8)p53の過剰発現が認められた症例の予後は,認められなかった症例に比し,有意に予後が良かった. 9)p53の過剰発現が認められた症例では,有意にN0症例が多かった.
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