本年度は主に予備実験を行った。 1.実験方法 実験には鼓膜に異常所見のない12匹のモルモット(250-300g)を使用した。既に報告した耳介皮膚の中耳背側骨胞への遊離移植により、移植3週後に嚢胞の形成を確認した。これら嚢胞壁の一部を破り内部の表皮剥屑物を可及的に掻き出して嚢胞周囲の肉芽組織の中に散布した。以後の操作により動物を2群に分けた。(1)充填群:直ちに生理食塩水で溶いた石膏を用いて中耳腔を完全に充填した。石膏が完全に固まったことを確認し、創を縫合閉鎖した。(2)非充填群:充填は行わず、そのまま創を縫合閉鎖した。動物は2週後、4週後、8週後に致死させ中耳を摘出した。4%ホルマリン固定の後EDTAを用いて脱灰し、パラフィン包埋を行って2μmの厚さで連続切片を作成してHE染色を施し、組織学的検討を行った。 2.実験結果と考察 実験的真珠腫の形成の程度を、嚢胞壁の損傷の程度により嚢胞壁が完全に保たれているgrade Iから嚢胞上皮が消失しているgrade Vまでの5段階に分けて評価した。充填群では全例の真珠腫がgrade III〜IVと高度に形成が阻害されていたのに対し、非充填群では全例grade Iであり形成阻害が認められなかった。充填群での真珠腫形成阻害の理由として組織所見からは、石膏充填により高度の炎症反応が生じたため嚢胞上皮が破壊されたことなどが考えられた。しかし炎症所見が消退した充填後8週目の例では嚢胞の再形成がみられており、結論を得るにはより長期間の経過観察が必要と思われた。
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