内耳の半規管を刺激することによって得られる末梢前庭性眼振は視覚によって抑制されることは古くから知られている。visual suppression testはこの現象を臨床検査方法に応用した方法である。この検査方法は臨床上は小脳、脳幹(橋)、下頭頂葉の病巣診断に広く用いられている。われわれはこれまでにおこなわれていなかった回転刺激を前庭性眼振の刺激方法として用い、その後眼振においてvisual suppression testをおこなう方法についてこれまでに多くの臨床例における業績を報告した。 スポーツマンにとって自らの姿勢を制御する重要性は言うまでもない。従来までは、スポーツマンの姿勢制御における訓練効果、熟練度、その素質などを評価する方法としては身体の動揺を記録する方法による報告を多くみる。 今回の研究では運動選手の姿勢制御における視覚系と内耳前庭系を統合すると考えられる小脳の働きに注目し、眼球運動の立場からこの統合における小脳の働きを評価する目的で回転後眼振を用いたvisual suppression testにより以下の研究をおこなった。 今回の研究では 1.被験者として回転運動には関係が余りないと考えられるが、視覚による運動の制御が比較的重要と思われるスポーツ選手として卓球選手を選んだ。この卓球選手の中からできるだけ様々な経験年数、熟練度の選手を無作為に被験者として選び回転後眼振を用いたvisual suppression testを施行した。 2.卓球選手で現在のところ結果を検討しうる7例においては平均の利得(head/eye)は0.77、後眼振持続時間は37.8秒、visual suppressionの抑制率は76.5%であった。また卓球経験の長い上級者群2例においては利得は0.78、後眼振持続時間34.3秒、抑制率80.7%であった。さらに卓球経験の短い初心者群4例においては利得は0.79と上級者と比べても差のない値であったが、後眼振持続時間は40.2秒と延びており、また抑制率は75.7%と上級者群と比べると低い抑制率であった。回転運動をよくおこない、しかも視覚による姿勢の制御が重要であると思われるバレエダンサーの結果と比較すると、後眼振の抑制率は卓球選手の場合はバレエダンサーほど高い相関性はみられないが、しかし経験者群の方が高い抑制率がみられた。
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