研究概要 |
交付申請書に記載した通り、MRL+(MRL/Mp +/+,Thy1.2)マウスと、congenic MRL 1pr(MRL/Mp 1pr/1pr,Thy1.1)マウスを用い実験を行った。後者は前者と異なり、1prという劣性遺伝子を持ち細胞表面にFas抗原を持たず、またTリンパ球表面にThy1.1抗原を持つ。hostとしてMRL+マウスに、致死量(9.5cGy)の放射線照射を行って、このマウスの骨髄細胞を含む免疫担当細胞を殺してのち、donorであるMRL/1prマウスの骨髄細胞を静注(即ち骨髄移植)した。移植された骨髄から成熟したThy1.1陽性Tリンパ球は、Fas抗原を持たないため、宿主MRL+マウスのFas抗原を持つ細胞を"非自己"と認識して、宿主の細胞を攻撃し、GVHDが生じはずである。実際、組織学的に肝臓のリンパ球浸潤や、脾臓の広範な線維化が生じ、GVHDが生じていることが確認された。内耳においては、ABRは正常マウスと変化なく内リンパ水腫も見られず,内耳障害は明らかでなかったが、内リンパ嚢にリンパ球の浸潤がみらた。凍結切片による免疫組織学的検索ではこのリンパ球がThy1.1抗原陽性であることが判明した。この抗原はdonorであるcongenic MRL 1pr(MRL/Mp 1pr/1pr,Thy1.1)マウスのTリンパ球が表現する抗原である。したがって、内リンパ嚢に浸潤した細胞は、donorの骨髄から増殖したTリンパ球であることがわかる。こうしたことより、内リンパ嚢内に出現する免疫担当細胞は血液骨髄系細胞由来であり、脳血液関門の様なバリアーは見られず、血液体循環から免疫担当細胞の供給を受けると考えられる。 自己免疫性疾患の進行中に内耳機能異常がみられたり、内耳疾患であるMeniere´s Diseaseに、全身免疫異常が生じるという報告がみられ、全身疾患と内耳疾患との免疫学的関連性が推測されてきた。こうしたことは、血液体循環の免疫担当細胞が内リンパ嚢と交通するという今回の実験結果と合致するものであり、今後の内耳性自己免疫性疾患の発生機序解明の糸口になるものと考えられる。
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