目的:水晶体と交叉抗原性を有する眼科組織は、胃粘膜、腎臓、肝臓などが報告されている。 私はウシ水晶体硫安分画を免疫後にYAGレーザーで水晶体前嚢を破ることにより、ラットに実験的水晶体起因性ぶどう膜炎(ELIU)を惹起する方法を既に報告しているが、今回はウシ肝臓可溶性蛋白を免疫した場合にELIUと同じような炎症が惹起されるかどうかを検討した。 方法:8週令のルイス系ラット(N=4)にウシ肝臓硫安分画(50%飽和)を400μgずつフロイント完全アジュバントと共に免疫し、同時に百日咳死菌2×10^<10>個を静注した。対照にはウシ血清アルブミンを同量免疫した。免疫13日後に皮内反応を調べ、14日後にYAGレーザーで右眼の水晶体前嚢を破った。破嚢直後から細隙灯顕微鏡で前眼部を観察し、破嚢7日後に屠殺し採血と眼球摘出を行い、ELISA、Immunoblotting、病理組織学的検索に用いた。 結果:1)臨床経過:ウシ肝臓溶液を免疫されたラットは、全例右眼に後房蓄膿を伴うぶどう膜炎を発症したが非破嚢眼である左眼には炎症所見はみられなかった。対照群は、両眼とも炎症は惹起されなかった。2)皮内反応:ウシ肝臓溶液を免疫されたラットはウシ肝臓に対するDTHのみが陽性で、ウシ肝臓に対してはDTH陰性であった。3)ELISA及びImmunoblotting:ウシ肝臓溶液を免疫されたラットの血清はウシ肝臓以外にウシ水晶体、ウシぶどう膜とも交叉反応を示した。またウシ水晶体のβB_p(MW=23000)と最も強く反応した。4)病理組織学的所見:ウシ水晶体硫安分画を免疫されたラットの虹彩にリンパ球と類上皮細胞の浸潤、前嚢断端に連なる線維性組織の増生がみられた。 結論:ウシ肝臓溶液の免疫によりELIUと同様の機序で炎症が惹起され、ウシ肝臓にβB_pと免疫学的に同一な成分が含まれることが明らかとなった。今回の結果は、臨床的には肝臓に対する自己抗体の出現がみられる自己免疫性肝炎と水晶体起因性ぶどう膜炎との間の関連性を示唆するものである。 (本研究の要旨は第60回日本中部眼科学会で発表し、日本眼科紀要会に投稿中である。)
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