研究概要 |
本研究を遂行する目的で手術症例を重ねるごとに原法通りでは円孔を高率に閉鎖させることは困難であることが判明した。その対策としてフィブリン糊(以下F糊)を術中に円孔上に滴下し閉鎖率を向上させようと試みた。他施設ではTGF-β、自己血清の円孔上への滴下や円孔底の網膜色素上皮の掻爬など原法の手術方法を改変して円孔の閉鎖率を高めようとしている。F糊の網膜への影響について当教室はすでに動物眼において検討しその安定性および有効性を報告した。本研究では黄斑円孔手術の際、F糊を使用し網膜機能を電気生理学的に術前後で検討した。対象はstage3および4の黄斑円孔11例11眼、平均年齢63歳、平均羅病期間3.5年、術前平均視力0.15であった。全ての患者からF糊使用のインフォームドコンセントを得た。硝子体切除、PVD作成、液空気置換後、黄斑円孔上にフィブリノーゲン液を、次にトロンビン液を滴下し、眼内を15%C_3F_8に置換し、術後うつむき姿勢をとらせた。術前および術後2ヶ月にERGおよびパターンVEP(PVEP)の記録を行った。平均輝度50cd/m^2、コントラスト30%、checksize160,80,40,20および10分の市松模様を12Hz(steady state)および2Hz(transient、check sizeは40分のみ)で反転し、得られた波形を加算平均した。ERG振幅および潜時は、a波295.7±81.2mVvs.289.6±70.3mV(術前vs.術後、以下同様);b波287.6±116.1mVvs.250.6±74.6mV;0_221.1±3.3msec vs.23.3±1.52msec;30Hz64.3±12.0mVvs.58.4±24.5mVであり、術前後において有意な差が示さなかった。(paired-t)。PVEPはtransientのP100潜時でのみ有意差が術前後でみられたが、F糊非使用眼においても同様の有意差がみられたからこれは手術侵襲によると考えられた。F糊は網膜に対しほとんど無害であることが示唆され、閉鎖が困難と思われる大きな円孔や再手術症例には有用と思われた。
|