研究概要 |
今回の研究課題においては、Hirschsprung病及び同類縁疾患の発生学的異常さらにはそれらと相関すると考えられる全身の病態・病変に関して研究を行った。 (1)疾患モデルマウス胎仔を用いた消化管神経叢ならびに神経堤細胞に由来する諸臓器の発生に関する病態の検討: Hirschsprung病及び同類縁疾患の発生学的異常を検討するため、本疾患と同様の病態を有する疾患モデルマウス(ls; lethal spotted)を用いて胎生学的検討を行った。胎生10〜14.5日目のマウス胎仔における形態学的検討では神経堤細胞の消化管ならびに中枢神経系における発生に関する胎生環境に病態が観察され、消化管神経叢を含む自律神経系や光彩調節系・聴覚神経節系の発生異常と病因的相関を有する可能性が示唆された(J Pediatr Surg,IN PRESS)。 (2)Hirschsprung病及び同類縁疾患患児における消化管ならびに全身病変に関する検討: 新生児期に始まる重篤な消化管運動機能障害を示す患児について、上記結果をもとに、消化管外症状を含む全身性疾患(神経堤細胞由来臓器との相関)としての臨床的検討を行った。従来、消化管運動機能異常の観点から検討される機会の少なかった肝・胆道系(胆汁排泄系)に関して超音波検査を中心とした非侵襲的検査法を用いて検討を行ったところ、胆嚢収縮能をはじめとした運動機能の異常が証明された。これにより、重篤な胆汁欝滞等の病態が同症患児において早期に回避可能であることが証明された(J Pediatric Surg 1993,Eur J Pediatr Surg,IN PRESS)。さらに、蝸牛神経節細胞の機能障害の可能性について検討するため聴覚脳幹反応(A.B.R.;auditory brainstem response)を用いて検討したところ重症のHirschsprung病ならびに同類縁疾患患児に異常パターンを示す所見が確認され、報告を行った(Lancet 1994)。この所見は、同様に神経堤細胞の発生に関する全身病変として病因を共有している可能性を示しており、今後さらに検討を続行する必要性を有すると考えられた。
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