研究概要 |
当研究グループでは、これまでエナメル芽細胞が特異的に分泌する蛋白質であるアメロゲニンに対するモノクローナル抗体(En3抗体)を作製し(Inai et al.,1991,1992)、これを細胞マーカーとして用いて、エナメル芽細胞のラット前歯からの調製、初代培養、継代の方法などを確立しているが(Kukita et al.,1992)、まだ幾つかの課題が残っており、そのひとつに増殖条件の改善の必要性があった。現法では、I型コラーゲンプレートを用いて細胞を蒔き込み、上皮細胞用無血清培地である完全MCDB153培地(Boyce & Ham,1983)を用いて培養を行っているが、エナメル芽細胞が対数増殖期に入るまでに2日ほどかかり、その後も1週間で6〜10倍程度の細胞数増加である。これは、エナメル芽細胞の分裂活性が本来低いことを反映している可能性もあるが、むしろ、増殖のために必要な細胞外基質や成長因子の要求性が十分に満たされていないことを示している可能性がある。 そこで、本年は、上皮-間葉の相互誘導分化・増殖に関与していると思われる、EGF、TGF-β、HGF、KGFの培養エナメル芽細胞に対する効果について調べた。それぞれを既知の効果濃度の0.1〜10倍の範囲で培地に添加し、(1)増殖に対する影響があるかどうか、(2)分化に対する影響があるかを調べた。その結果、いずれの成長因子も増殖に関しては著明な影響をもたなかったが、EGFがアメロジェニン合成細胞の割合を最大10倍に増やす効果があることがわかった。細胞増殖を伴わないアメロジェニン合成細胞の割合増加は、非合成細胞からの分化を意味するものと考えられ、興味ある結果であった。また、上清中のアメロジェニン量には著しい増加が見られなかったことから、アメロジェニンの合成を行なうようになった細胞は、分泌を行なう前の分化段階で停止している可能性が示唆された。以上の結果は、エナメル芽細胞の増殖・分化を研究する上で、重要な知見であり、第36回歯科基礎医学会で発表を行った。
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