生後早期のヒトやラットの耳下腺にみられる粘液細胞の動態を調べる目的で、生後3-10日齢のWistar系ラットを用いて微細構造の観察および以下の染色を行った。粘液細胞が細胞分裂を行っているかどうかを明らかにするために、DNA合成期(S期)の細胞核に特異的に取り込まれるBromodeoxyuridine(BrdU)を用いて免疫染色を行った。また漿液細胞の分泌果粒中に特異的に存在するProtein B1が粘液細胞中にも存在するかどうか調べるために抗Protein B1抗体を用いて免疫染色を行い以下の所見を得た。 粘液細胞に含まれる分泌果粒は、電子密度の低い明るい果粒や、明るい基質の中に電子密度の高い芯をもつ二相性の果粒であった。生後3日頃は明るい果粒が多数であったが、時間の経過とともに二相性の果粒が数を増していった。また二相性果粒の芯の部分の電子密度が徐々に高くなり、芯の大きさも増していったため、漿液果粒と非常に似た形態を示すものがみられるようになった。生後7日頃には電子密度の低い明るい果粒や二相性を示す粘液果粒と、均一で高い電子密度の漿液果粒が1個の細胞に混在している像が観察された。BrdU抗体による免疫染色を行ったところ、粘液細胞中に陽性反応を示す細胞核は認められなかった。抗Protein B1抗体による免疫染色を行ったところ、低い電子密度や二相性を示す粘液果粒のみを含む粘液細胞は反応しなかった。しかし生後7日頃にみられる粘液果粒と漿液果粒が混在している細胞では、粘液果粒も漿液果粒と同様に弱い陽性を示した。 以上の結果から、粘液細胞が形態的に漿液細胞へと変化して行く過程で、Protein B1産生能を獲得することが明らかになったと思われる。さらに粘液細胞は細胞分裂能を持たないかあるいは非常に低い細胞であることから、漿液細胞とは異なり独自の発達を遂げる細胞である可能性が示唆された。
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