これまでヒト顎関節周囲の静脈系に関する詳細な報告は見られず、静脈系を中心とした循環障害と顎関節症の関係についてもほとんど報告が見られない。そこで今回は、家兎を用いて翼突筋静脈叢の位置および形態をヒトの翼突筋静脈叢と比較を行うとともに、短時間結紮後の変化の有無を検討した。 その概要ならびに実績は次の通りである。 1.材料:本学解剖学研究室保存の実習遺体20体40側および家兎10羽を用いて行った。 2.方法:翼突筋静脈叢を含む顎関節周囲を一塊とした摘出しEXAKT CUTTING SYSTEMにて厚さ4mmの非連続切片を作製し肉眼的および光顕的に観察を行った。また家兎では、麻酔下で頸部を正中切開し、浅側頭静脈と後耳介静脈が合流する下方にて結紮し、静脈が白変したのを確認後、皮膚縫合を行い60時間経過後、EXAKT CUTTING SYSTEMにて厚切切片による観察と血管樹脂注入法を用いて顎関節周囲静脈系の観察を行った。 3.結果:家兎の下顎骨の形態はヒトと同様に下顎枝と下顎体に分けられる。しかし下顎枝に存在する突起が筋突起、関節突起、角突起でありまた下顎骨に付着する筋も、内側翼突筋が内側部と外側部に分けられるなどヒトと一部異なっていたが、家兎でも顎関節の前方で下顎を取り囲む様にすなわち筋突起と関節突起の間、下顎切痕上を横走する状態で袋状の静脈が存在し、さらに内部には著名な梁柱も存在する静脈叢の存在を確認した。 長谷川(1983)、Browse NL et al(1988)は静脈環流に関して筋収縮による筋ポンプ作用が促進的に静脈に働き、また静脈はその筋収縮の影響を受けやすい部位に存在していると報告している。 つまり、下顎頭の位置や形態が基本的に異なる事により、翼突筋静脈叢の位置も異なるものと考えられる。このことから家兎の翼突筋静脈叢が関節突起下顎頭周囲に筋隙に存在することは、この部が最も、筋収縮時に影響を受ける部であり、翼突筋静脈叢は咀嚼筋群による筋ポンプの作用を受けることは明かであり、下顎骨の運動障害もしくは顎関節周囲静脈系の循環異常が顎関節症の一原因に大きく関係するのではないかと考えられる。 また今回は結紮時間が短時間であり顎関節周囲静脈系には著名な変化は認められなかった。 今後、この翼突筋静脈叢と顎関節の形態についての関連の解明を目的に研究していくつもりである。本研究の概要は第36回歯科基礎医学会総会にて報告を行った。
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