大腸菌の環境応答のうち、分子状酸素濃度の低下に応答した好気的から嫌気的への呼吸系転換には、酸素センサーであると同時にDNA結合性調節蛋白であるFNRの関与が必須である。FNRはC末端のDNA結合領域の類似性からCRP(cAMP receptor protein)とCRP-FNR familyを形成しており、このfamily間ではFNRの方がN末端領域に分子状酸素を感知すると考えられるシステインクラスターを保持していることで区別されている。最近、DNA結合領域とシステインクラスター領域の両方においてFNRと同様な特徴を持つ蛋白(HlyX:Haemolysin合成における転写調節蛋白)がActinobacillus pleuropneumoniaeに存在することが報告され、FNR-HlyX familyの存在も示唆されている。このことよりFNRの機能的側面において、嫌気的呼吸系遺伝子群のactivatorに加えて病原細菌の毒素産生に対する調節蛋白としての可能性が推察されている。 種々の代謝様式を持つ5種の代表的な口腔内常在細菌でのFNR様蛋白の存在の有無を確かめる前年度までの予備的な実験で、抗FNR血清との反応性と分子量の類似性から通性嫌気性細菌で嫌気的呼吸系を持ち、かつ白血球毒素産生能を持つActinobacillus actiinomycetemcomitansにのみ有意なFNR様蛋白の産出が認められた。さらに、フルクトース制限下のケモスタット培養における増殖パターンの変動実験から、A.actinomycetemcomitansのFNR様蛋白と大腸菌FNRとの間に産生量変動パターンにおける相関性が観測された。 本年度は、上記のA.actinomycetemcomitansに加えてHaemophilus aphrophilus、Capnocytophaga gingivalis、Capnocytophaga ochraceaの4種の口腔内常在通性嫌気性細菌におけるFNR様蛋白およびfnr様遺伝子の検出を試みた。その結果の要点は、下記の通りである。 (1)抗FNR血清と反応する分子量約30Kの蛋白は、A.actinomycetemcomitansに加えてH.aphrophilusも産出することが確認された。 (2)FNR-HlyX family間でのコンセンサスなアミノ酸領域より設計した混合プライマーを用いたPCR法でも、fnr様遺伝子の増幅産物がA.actinomycetemcomitansとH.aphrophilusに検出された。これらの増幅産物のシークエンシングの結果、fnr様遺伝子はfur遺伝子およびhlyX遺伝子と非常に高い相同性があることが確認され(約75%)、FNR-HlyX familyに属すると思われる。 以上の事実より、A.actinomycetemcomitansおよびH.aphrophilusのFNR様蛋白は大腸菌FNRとの構造的、機能的な類似性だけでなく、毒素産生調節蛋白との構造的類似性も有することを初めて見い出した。(投稿準備中)
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