ヒト咬筋に対する表面コイル法による31P-スペクトロスコピーの方法を本研究代表者は平成4年度の科学研究費を使用して確立し、その成果を顎関節学会誌(P14-25 vol6 No.2 1994)に発表した。今回はさらに領域選択法、ISIS(image selected in vivo spectroscopy)法を使用し、より正確にヒト咀嚼筋群の個々のスペクトルを得ようとする試みを行った。対象被験者は正常ボランティア10名であり、使用機種は静磁場強度1.5teslaの臨床機種(MAGNETOM)を使用した。 結果および結論 1.領域選択法について 理論的には信号収集領域を直方体とすることは可能であるが、実際にはその領域内での磁場の均一性が得られず、領域設定は立方体のみ可能となった。したがって、咀嚼筋群のような直方体の形状を有する筋の場合、信号収集領域が筋全体を含むためには不可能となった。 2.ISIS法は信号収集領域が小さく、表面コイル法に比べ信号が弱く、そのため加算回数を512、1024回とする必要があり検査時間もそれぞれ約26分、52分となった。 3.バックグランドノイズにスペクトルが埋没することが多く、より良いスペクトルを得るためには被験者の強力がかなり必要な検査であった。 4.実際スペクトルは10例中1例の咬筋から得られた。その他の、内外側翼突筋、側頭筋は体積がかなり小さく、形態も複雑であり、ISIS法では選択領域の磁場の均一性が確保できずスペクトルは得られなかった。今後、対象筋肉の形態に合わせた領域の設定、領域選択法の確立がなされて初めて安定したISIS法によるスペクトルが得られると思われた。
|