本研究は、口腔粘膜での免疫寛容の発現を、ラット急性移植片対宿主病(GVHD)モデルを用いて検討した。1.移植前ドナー特異的輸血(DST)によるGVHD発症の抑制効果より、DSTの免疫寛容誘導が明らかとなった。2.DSTによる免疫寛容の免疫組織化学的検索:(1)GVHDでの舌粘膜:クラスIIとICAM-1抗原の発現を舌粘膜上皮ケラチノサイトで認める。(2)DSTによる寛容発現の舌粘膜:クラスII抗原の発現は、ケラチノサイトにみられた。しかしながら、ICAM-1の発現は認めなかった。すなわち、ICAM-1発現の抑制は、GVHD病変の特徴であるT細胞の浸潤に関与するLFA-ICAM接着経路の成立を阻止したものと考える。3.免疫寛容におけるキメリズムの成立:(1)GVHD舌粘膜でのキメリズム:ドナー由来の細胞は、ほぼT細胞であった。特に、細胞浸潤が著明となる病変時期では、レシピエント由来のT細胞に混じてドナー由来のCD8陽性T細胞が散見された。すなわち、GVHD病変の成立に、ドナー由来T細胞も関与することが示唆された。(2)免疫寛容状態でのキメリズム:DSTによる寛容誘導の状態では、GVHDでみられるようなドナー由来のT細胞浸潤は認めなかった。しかしながら、DST開始後から舌粘膜固有層ではドナー由来の樹枝状細胞の出現が明らかとなった。この細胞はクラスII陽性細胞で、抗原提示能を所有するものと考える。また、同細胞はレシピエント由来クラスII陽性樹枝状細胞と共存し、粘膜固有層においては、DSTにより抗原提示能をもつ樹枝状細胞のキメリズムが成立した。 以上のことから、口腔粘膜局所における免疫寛容の成立には、ドナーとレシピエント由来のクラスII陽性樹枝状細胞のキメリズムの成立が重要であることが明らかとなった。さらに、舌粘膜での現象として、接着分子であるICAM-1のケラチノサイトでの発現を抑制することが、寛容誘導の指標となることが示唆された。
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