ヒト耳下腺および顎下腺唾液に特有のポリペプチド、Histatinは歯牙エナメル質の表面を安定化させる作用、抗菌作用、抗真菌作用などさまざまな作用を持っているが、その作用の本質は蛋白分解酵素の抑制作用であると考えられる。このHistatinに対する抗体が北海道大学歯学部生化学教室の久保先生のもとで作成され、生化学的にさまざまな研究がなされているが、唾液腺組織における組織学的なHistatinの局在および唾液腺腫瘍における変化等については検索されていなかった。北海道大学歯学部生化学教室の久保先生から抗Histatin抗体を受け、免疫組織化学的にヒト唾液腺組織および各種唾液腺疾患におけるHistatinの局在を検索した。 正常唾液腺では、導管組織に存在し、漿液性および粘液性腺房組織には存在しなかった。唾液腺腫瘍においては、各腫瘍によって様々であった。多形性腺腫では導管様構造部の管腔側細胞の一部および筋上皮細胞様部の一部の細胞に陽性を示した。腺リンパ腫では2層の上皮に陽性を示した。腺様嚢胞癌では導管および導管様構造部に陽性反応を示した。粘表皮癌では類表皮細胞に陽性反応を示したが、粘液産生細胞には微弱陽性または陰性であった。 以上の結果から分解酵素の抑制因子であるHistatinの正常唾液腺および唾液腺腫瘍における局在は、一般に分泌蛋白の合成を行っている腺房細胞ではなく導管細胞に存在し、また腫瘍細胞においても導管細胞由来の細胞に局在することが証明された。
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