歯髄炎の可逆・不可逆を診断することは、歯髄疾患の合理的な治療方針を決定するうえできわめて重要である。しかしながら、その診断は、現在でも主観の入る臨床的な診査を基準にしており、歯髄炎の客観的診断法は確立されていない。本研究では、露髄時の出血に着目し、歯髄血液の分析による歯髄診断法の開発を試みた。まず、自発痛や持続性の冷・温刺激痛より抜髄を余儀なくされた歯髄を炎症歯髄、補綴的要求から便宜抜髄された歯髄を正常歯髄とし、ナイロンファイバーにて露髄時の出血を採取し、血液中の炎症因子をELISA法にて定量した。その結果、正常歯髄のプロスタグランディンE_2(PGE_2)、エラスターゼがそれぞれ0.57ng/ml、17.14μg/mlであったのに対し、炎症歯髄では152.06ng/ml、123.37μg/mlと高値を示し、統計学的に有意差が認められた(PGE_2;P<0.01、エラスターゼ;P<0.05)。歯髄血液中の血球成分については、多形核白血球数とエラスターゼ値の間に弱い相関が認められた。また、歯髄炎を有する抜去歯を試料とし、摘出した歯髄を半切して、一方を組織学的に検索し、もう一方をホモジナイズしてから上清成分の炎症因子を検索したところ、浸潤した炎症細胞数が多ければ、炎症因子の濃度も高くなる傾向にあったが、今回の検索では有意差は認めなかった。以上の結果より、PGE_2およびエラスターゼが歯髄炎の進行に関係している可能性、さらにこれらの因子が不可逆性歯髄炎の診断における診断マーカーとして有用である可能性が示唆された。今後は、直接覆髄症例におけるPGE_2、エラスターゼ値とその術後成績との関連性について検討し、不可逆性歯髄炎の診断法を確立していく予定である。
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