感染根管治療の予後不良の主たる原因は根管内に残存する細菌であり、その深部象牙質内への侵入であると考えられ様々な研究が行われているが、まだ不明な点が多い。そこで本研究では、深部象牙質う蝕の進行に関与し、さらに感染根管からも検出される数種の口腔細菌を用いてin vitroにおいて根管壁象牙質内への細菌侵入の程度と、細菌が根管内に残存する可能性を調べようと試みた。 1.供試菌株:継代保存中のBacteroides intermedius、 Lactobacillus casei、 Propionibacterium acnes、およびEubacterium alactolyticumの各菌株を用いた。 2.実験用試料の作製:ウシ切歯の新鮮抜去歯から歯髄を除去後、無菌的に直径6mm、高さ4mmの歯根部試料片を作製した。なお、本試料片は根管壁象牙質の状態を均一にするために、随腔の直径2mmに調整して用いた。 3.培養:2.の試料片を培養液に入れ、その中に1.の菌株を単独ないしは2種類を混合させて注ぎ、嫌気的に培養した。培養は10日、20日、28日間行ったが、その間4日ごとに培養液の半量ずつを新鮮な培養液と交換するとともに、接種菌の消長を追跡した。 4.侵入細菌の組織学的解析:所定の培養期間終了後、各培養液から試料を取り出し、割断あるいは脱灰標本を作成して、根管壁象牙質内への菌の侵入度を光顕(Brown-Brenn法を用いた細菌染色)および走査電顕を用いて観察した。光顕では接眼ミクロメーターを用いて、菌の侵入距離を測定した。また各菌株から得た抗血清を一次抗体として、酵素抗体法(ABC法)により免疫組織化学的染色を行い、各菌種間の象牙質への侵入の違いや、菌種間の相互作用について検討した。 その結果、Propionibacterium acnesの侵入深度が他の菌に比べて深かった。しかし試料の数が少ないので明確な結果を得るまでには至っていない。現在実験は継続中であり、今後の実験結果をふまえて最終的な結論を出したいと考えている。
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