研究概要 |
(研究目的) これまで印象採得時における動揺歯の変位についてのシミュレーション実験を行ってきた。それらの結果によると、印象用トレーのスペーサーと遁出孔の設置により動揺歯の変位を小さくすることが可能であるが、その設置位置によってはかえって変位量が大きくなる場合があった。また、動揺歯の変位はトレー内の印象圧の差によって生じるものと考えられた。 本研究では、印象採得時に動揺歯に加わる圧を各種トレーの条件下で測定し,この印象圧と前述の歯の変位のとの関係を検討した。 (研究方法) 動揺歯の変位の実験と同様、3-3残存で左側中切歯を動揺歯とする模型を用いた。この動揺歯の対照としての右側中切歯(以下、固定歯)、およびこれらとは部位の異なる右側犬歯に対する唇側と舌側の印象圧を計測した。印象用トレーはスペーサーと遁出孔の条件により18種とした。 (研究結果と考察) 動揺歯の印象圧は、唇側よりも舌側で大きく、これらの印象圧差は唇側変位を示した動揺歯の変位量と高い相関関係を示した。一方、動揺歯と固定歯の印象圧ならびに印象圧差に統計学的有意差は認められなかった。また、中切歯と犬歯の比較において、犬歯では唇側の印象圧が大きくなり、各トレーによる印象圧差の傾向は中切歯と類似していたが、印象圧差の大きさは中切歯より統計学的に有意に小さかった。以上のことから、動揺歯の変位は印象圧の差により生じることが示され、印象圧は歯牙の解剖学的形態と位置により異なると考えられた。また、印象圧の影響は歯の動揺度には関係ないことが示された。 この研究の一部は、第92回日本補綴歯科学会(1994,11月)において発表した。
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